江戸の町をにぎわし、江戸の粋を表した「看板彫刻」
看板彫刻の職人、細野勝さんの「工房まちす」には、多彩な形の看板がいくつも置かれています。長い杓子をかたどっためし屋の看板や、2本の大根が交差した八百屋の看板(※)。「看板は江戸時代の広告。のれんで屋号を表し、看板でなにを商っているか伝えました。私の調査では上方と関東でも違いがあるんですよ」と細野さんは説明します。「上方は漆を塗るのでカツラなど木目が出ない木、関東は木目がはっきりした広葉樹がく使われました」。上方は彫りがこまかく、関東は木地を活かす傾向があるとも言います。
(※) 出典: エドワード・モース・コレクション
小刀の柄は 自分の手に合わせて自作。鋼(はがね)も彫る木の堅さに合わせて変えます
工程を見せてもらうと、「彫りの基本は薬研彫。小刀1本でなんでも彫れますよ」と文字を彫り出していきます。彫痕がV字にくぼむように彫るため、文字が浮き出て見えるのが特徴。静かな工房にシュッシュッと木を削る音が響きます
紙でマスキングした上から小刀で文字を掘ります
看板の起源は奈良時代にまで遡るといい、工房の本棚には看板や彫刻に関する資料がぎっしり並んでいます。「看板はアイデアが勝負。昔の人のほうがしゃれっ気があったね」と細野さん。今は商品のサイクルが速く、看板の需要は減っていますが、細野さんの職人技は千社札などに形を変えて下町文化を支えています。
細野さんは築地の職人のもとで修業したそう
看板の文化を もっと知って ほしいですね、と細野さん