Photo/Saori Kojima
Text/Ayako Futatsuya
一見すると、住宅街の中に佇むおそば屋さん。でも、地元の人はみんな知っています。この「天哲」がある浦安のフラワー通りは、かつてたくさんのお店が軒を連ねた活気のある商店街だったこと。通りに並行して流れている境川に船が着き、仕事を終えた漁師たちで連日にぎわっていたと。
のれんをくぐり店内へ入ると、常連さんと思しき先客が数人。お昼の時間はとうに過ぎていましたが、その後もお店の引き戸は何度も開き続けました。お店に立っていたのはご主人、奥様、娘さんの3人。お客さんとの会話を楽しみながらも、見事な家族の連携プレーで次々と注文の品をさばいていきます。
やがて運ばれてきた「天ぷらそば」は、しっかりと色付いたつゆの中にしなやかな麺がのぞき、その上には立派なエビの天ぷらが一尾。まずはそばをすすってみるとつるりと、なめらかで、醤油ベースの濃い目の熱いつゆが舌と喉を程よく刺激します。大ぶりのエビをかじったら、おそばとつゆをもうひと口。すると、ごま油が天ぷらの衣からしみ出し、つゆのうまみが増していることに気が付きます。
「この味付けは、漁師町の名残。昔から変えてないの」と教えてくれた奥様。創業以来106年、同じ味を守り続けています。「迷ったこともあったけど、うちはこれでやっていこうって決めたんです。数十年ぶりのお客様に『変わらないね』と言ってもらえたときは、〝これでよかったんだな〟って」。いちばん人気の定番メニュー『カレー南蛮』もやはり濃い目の味付けで、残ったカレーあんに半ライスを入れていただくのがこの町の〝漁師流〟なんだとか。
「ちゃんとしたものを手作りする」ことにこだわるご主人は、早起きをしてお出汁をとることから始まります。カツオ節は手で削り、無添加で保存料もなし。「変えないこともチャレンジ」と胸を張るように、毎日打つそばも、そば粉、水、割粉の配分はずっと同じです。
「味覚って、その当時のことを思い出させると思わない?」と奥様が言いました。町の風景は変わっても、変わらない天哲の味が記憶の扉となって、町の人々の心まで満たしてくれています。
※記事内容は2018年1月時点のものです
住所 | 〒279-0041 千葉県浦安市堀江3-8-17 MAP |
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電話 | 047-351-2670 |
営業時間 | 11:00~15:00(L.O.14:30)、17:00~20:00(L.O.19:30) |
定休日 | 水曜定休 |
その他 | アクセス/東京メトロ東西線「浦安駅」より徒歩8分
メニュー/天ぷらそば900円、カレー南蛮850円 |