Photo/Miharu Kimura
Text/Ayako Futatsuya
時の流れとともに人々の生き方や町の表情が変わっていくことが必然だとしても、先人の記憶や技を引き継いでいくことはできます。もちろん容易なことではありませんが、思いを持つ人が集まればバトンは未来につなげられる。漁師の伝統的な技術「投網」を後世に伝えるため、1995年に発足した「浦安細川流投網保存会」も、志を持つ団体のひとつ。現在2代目会長を務めるのは、内田守吉さんです。
子供の頃に戦争を経験した内田さん。漁師の家に生まれ、高校へ進学せずに働く人が多かった時代だったこともあり「小学生のときから教わって網を打って(=投げて)たよ」と、早くから家業の手伝いをしていました。やがて本格的に働くようになってからは、春から秋にかけては網船に乗って、とれた魚をその場で調理してお客さんに振る舞い、冬はべか舟で海苔を採るのが内田さんの日常。しかし、年々漁獲高が減っていった浦安は、1971年漁業権を全面放棄。自然と網船の客足も遠のき、経験のなかった不動産業界への転職を余儀なくされました。「不安だったし寂しさもあったけど、食べていくには仕方がないからね」
保存会の立ち上げの話があったときのことを振り返り、「30年以上空白があったから、大丈夫かな?と最初は思ったよ。でも、子供の時分に覚えたことは体に染み込んでるものだね」と笑顔。そして、そこにこそ投網のおもしろさが。「体で覚えるものだから、いくら人に口で言われてもできないんだよ」。いとも簡単に投げているように見えて、6~8㎏もある網を美しく打つのは至難の業。一人前になるには、10年くらいはかかるといいます。内田さんほどの手練になれば天候によって打ち方を変え、網の扱いだけでその人のレベルを見極めることができるそう。
現在保存会に所属するメンバーは約30人。毎月2回の練習を行うほか、毎年総合体育館で開催される伝統風物を取り入れた体力測定にも協力しています。「ただ、浦安の人が少ないんですよ。若い地元の人に来てほしい」と内田さん。かつて浦安で投網をしていた漁師は今や数人となり、願いは切実です。この日撮影のために着てくれた法被は、なんと現役時代から使っているもの。網を構えた内田さんが “ビュッ”と音を立てて網を打った瞬間、当時の情景が目に浮かんだような気がして、見事に心がとらえられました。
住所 | 〒279-0004 千葉県浦安市猫実1-2-7 MAP |
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電話 | 047-305-4300 |
営業時間 | 9:30~17:00(16:30最終入館) |
定休日 | 月曜 |
その他 | 入場無料 |
問い合わせは浦安市郷土博物館まで