Photo/Kenji Nakata
Text/Ayako Futatsuya
「昔は99%の人の家にお風呂がなかったけれど、今は逆。みんなが持っているものなのに来てもらわなければなりません」。瑞江駅から1㎞ほど離れた住宅地にある銭湯「第二寿湯」の鴫原和行さんの“当たり前の話”にハッとさせられました。ピーク時には都内に2700ほどあったとされる軒数も今では約5分の1まで減少。江戸川区内で現在営業しているのは、32軒です。銭湯を経営する人には厳しい現実のはずですが、鴫原さんの声音には悲壮感や諦めの色はありません。「今の銭湯には、見守り機能としての役目があります。高齢者の外出機会を確保し、それによりコミュニティができる。来ない人がいれば、“どうしたんだろう?”と気付くこともできるんです」。時代の流れとともに変わってきた銭湯の存在意義に、確かな使命感を抱いています。
鴫原さんが長年勤めた会社を退職し、奥様の実家である第二寿湯を継ぐことを決意したのは45歳のとき。「最初は継ぐ気はありませんでしたよ。結婚した相手がたまたま風呂屋の娘だったんです」と冗談半分に笑いますが、誰よりも意欲的にこの業界を変えるべく尽力してきました。「税金から補助金をもらっているのだから、市民にサービスでお返ししたい」と、区内の銭湯を回るスタンプラリーの実施やイベント湯の毎月開催、全国でいち早くAEDを区内の全店に設置するなど、鴫原さんの仕掛けた仕事は数知れず。
そしてなんと言っても、今や多くのファンに愛される「お湯の富士」の生みの親も、ほかでもない鴫原さんなのです。「2009年に区役所で『お風呂屋さんの背景画展』をやることになったとき、キャラクターを作りたかったんです。そこでコンペを行い、美大生から出た原案をもとにブラッシュアップを重ねました」。ふっくらしたフォルムにちょっぴりとぼけ顔が愛らしいお湯の富士は、さまざまなイベントに登場するなど知名度も上昇。第二寿湯の背景画の中からも、お客さんを癒しています。
「お風呂屋が元気になれば、来る人が元気になる。その人が町に出て行けば、町が元気になる」。そんなモットーを口にした鴫原さんは、「若い世代は価値観が違って情報量も発信力もある。これから銭湯をやっていこうと思っている人は強いですよ」と、次世代に高い期待を寄せます。終始ハツラツと語る鴫原さんを見ていたら、“ご自身もきっとお風呂に元気をもらっているのだろうな”と、気持ちがポカポカに温まりました。
住所 | 〒132-0013 東京都江戸川区江戸川1-46-12 MAP |
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電話 | 03-3670-6195 |
営業時間 | 16:00 ~23:00 |
定休日 | 金曜定休 |
その他 | アクセス/瑞江駅よりバスで東部区民館入口下車徒歩3分 |